阪神監督56年史


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矢野阪神 4年目

2022

3

68 71 4

ま、しゃあない

矢野燿大(53)

最終順位

3

68 71 4

*順位は月末のもの

チーム成績

打率 HR 防率 盗塁 失策
.243 84 2.67 110 86
選手名 打率 HR
1 近本光司 (28) .293 3 34
2 中野拓夢 (26) .276 6 25
3 マルテ (30) .256 1 11
4 佐藤輝明 (23) .264 20 84
5 糸原健斗 (30) .247 3 36
6 糸井嘉男 (41) .227 3 22
7 大山悠輔 (28) .267 23 87
8 梅野隆太郎 (31) .228 4 25
選手名 防率
9 藤浪晋太郎 (28) 3.38 3 5

*数字は2022年シーズンの成績

矢野阪神の4年目シーズン。

監督をやめる宣言
勝率わずか5厘差の2位に終わり「今年こそ」と意気込む2022年シーズンは大荒れのスタートとなった。

なんとキャンプイン前日に監督自らが「今シーズンで監督をやめる」と退団を発表したのだ。

その衝撃は一瞬にしてファンの間に広がり、大騒ぎとなった。この行動を矢野らしいと受け入れる声もあれば、何を考えてるんだと否定的なものもあり、賛否が分かれた。

前代未聞の発表には解説者、OBらも一斉に声を上げた。ただ、こちらは賛否ではなく、否のみと言っていいほどで、擁護する人はほとんどいなかった。

当時解説者だった岡田彰布は「こんなん聞いたことない。競っている時はええけど、負け続けたら一気におかしなるで」と苦言を呈していた。

スピリチュアルベースボール
そんな危うい雰囲気の中、春季キャンプがスタート。

退任を発表したことで何かが決壊したのか、影を潜めていた矢野監督のスピリチュアルな一面が目を覚ましてしまった。

「辞める以上は好きなことをさせてもらうと宣言した」との一部報道があり、ファンたちは身構えていた。だが、監督の行動は予想以上のものだった。まさか友人のメンタルトレーナーと文字職人がチーム内に入ってくるとは思わなかった。

・選手にメンタル本を配布
・2日間、選手に自己啓発セミナー
・2人1組で模擬MVPインタビュー

毎朝、飛び込んでくるのはプレイ以外のニュースばかりだった。

「練習せえや」
「打ち方教えたれや」
「走れや」

さすがにファンも苛立ちを隠せず、次第にSNSが荒れ始めた。

その後もスピリチュアルニュースはとどまることを知らず。他チームのファンから「阪神は球団ではなく教団だ」と揶揄されることもあった。

メンタル指導は選手に好評?
ただ、メンタル優先とも思える指導は何人かの選手たちには好評だったようで、影響を受けた選手がキャンプに「予祝」と書かれたTシャツを着て登場。予祝の一環として楽しそうに胴上げをしている写真がスポーツ紙一面に掲載された。

胴上げ

ノリノリで胴上げされた監督は「ありがたくいただきました」とご機嫌に宙を舞っていた。

矢野監督が放心状態に
そしてペナントレースが開幕。センバツで甲子園を高校球児に明け渡していたため、開幕戦は京セラドームにヤクルトを迎えての一戦となった。

試合は糸井嘉男の一発などで5回を終え7点リード。圧勝ムードに勝利を確信したベンチとファンはニッコニコで試合を見守った。

連敗

ところが6回から状況が一転。2本のホームランで猛追され、あっという間に1点差に。

何とか逃げ切りを図ろうと最終回に新助っ人ケラーをマウンドに送ったが、これが大誤算。山田哲人にホームランを被び、ついに同点に追いつかれてしまった。

そしてサンタナに逆転ホームラン。

連敗

7点差を守ることができず8対10。大逆転負けを喫してしまった。

連敗

連敗

連敗

試合後、矢野監督は魂の抜けたような顔で遠くを見つめていた。

1勝15敗
開幕での歴史的敗戦のショックは大きく、その後、チームは9連敗。3週間でわずか1勝という逆ロケットスタートを決めてしまった。気づけば成績は、

1勝15敗1引き分け

借金14と救いようの無い状況。勝率は0.06と見たことの無い数字になっていた。

連敗

絶望の中で現れたのは色紙
4月中旬にして二桁借金。チームは何か精神的なモノにハマっている。監督は魂が抜けた状態。もう絶望しかなかった。

そんな地獄のような日々もファンたちは希望を捨てることなく、懸命に、熱く、心の底から応援し続けた。

だが「4.15色紙事件」でファンの心は打ち砕かれた。

4.15色紙事件
4月15日、17試合を終え借金14という救いようの無いチーム状況の中、甲子園に巨人を迎えての伝統の一戦。

試合は2番に座った佐藤輝明が菅野智之から4号2ラン。コロナ感染で開幕投手を逃したエース柳晃洋が8回1失点と好投。4対1で巨人を下した。今シーズン初といっていい会心の勝利だった。

「めちゃくちゃ嬉しかったです!」
「すいません、遅くなりました」

はしゃぐテルと開幕に間に合わなかったことを笑顔で謝る青柳。この二人に、初めてのお立ち台となったロハスジュニアが加わり、ヒーローインタビューは大盛り上がり。開幕からよどみまくっていた空気は一気に吹き飛んだ。

ヒーローインタビューに続き、勝利監督インタビューが行われた。

「矢野は感動させたがりやからな。これはきっと熱いこと言いよるで。頼むで~矢野~」

快勝にホロ酔いとなったファンたちは、一旦両手のスーパードライを置き、正座。開幕から、たまりにたまったストレスを吹き飛ばす言葉を期待し、監督の登場を待った。

やつれた矢野監督
今シーズン初のベストゲーム。ご機嫌にインタビューブースに現れる矢野監督を想像していたファンは、その姿に戸惑った。

そこに現れた指揮官は異様だった。無表情で生気が感じられず、危うい雰囲気が画面越しでも伝わってきた。

やせ細り、明らかにやつれていた。何というか、潤いが無く、カサカサだった。何かに苛立っているようにさえ見えた。

開幕前の監督退任宣言でバッシング。キャンプ中にはメンタル鍛える暇あったら練習しろとバッシング。ペナントが始まれば開幕戦の大逆転でバッシング。その後は大連敗でバッシング。

長期に渡る様々なバッシングは監督の身も心も蝕んでいた。

インタビューが始まっても笑顔はなく、監督の口から出るのは全く盛り上がらない業務連絡のような受け答えばかりだった。

「まだ130試合近くあります!ここから巻き返して優勝し、この数週間の連敗は笑い話にしましょう!」

うおぉぉぉぉー!!

そんな流れを期待していたファンは強烈な肩透かしをくらった。

必死に盛り上げようと過剰なほどに明るく話を振るアナウンサー。何を言われても表情が死んだままの監督。二人の温度差が際立つ異様なインタビューが続いた。

そしてついにその時がやってきた。

プレゼントは色紙
最後にアナウンサーが「ファンに向けてのメッセージを」と締めのコメントを求めた。全阪神ファンは背筋を伸ばし、指揮官の言葉を待った。

「ちょっと時間大丈夫ですか?」

矢野監督はそう言うとゴソゴソと何かを取り出した。文字がたくさん書かれた色紙だった。それはキャンプ中に何度も見かけた文字職人が書いたものだった。

監督はその色紙を片手に、

友達の文字職人の紹介
365枚の札を使った儀式の説明
今日は「波」の札が出た報告

と誰も求めてない話を語り始めた。時に遠くを見つめ、陶酔したように。

「この人何を言うてはるんや…」
「これ勝利監督インタビューやんな…」
「矢野、ヤバない?」

ぞわぁぁぁー

知人が急に信仰する宗教を語り始めたような、何とも言えない気持ちになった。

そして色紙トークを終えた監督は再び友人の名前をあげ、「ありがとうございます」と感謝の言葉を述べた。

SNSは一瞬にして燃え上がった。それは矢野阪神時代で最も大きな火柱だった。

矢野監督の優先順位
このインタビューでは、数分間、色紙を説明。そして職人に感謝の言葉を述べた後、最後にファンへの言葉を口にした。

「タイガースファンのみなさんね、いつもありがとうございます」

と。

ファン「も」なのかと監督の優先順位が透けて見えた気がしてすごく萎えたことを覚えている。

監督やめる宣言どおりやめる
チームは95試合目にして今季初の貯金生活に入ったが、Aクラスを死守し3位でシーズンを終えるのがやっと。最後まで首位争いには加わることはできずシーズンを終えた。

シーズン終了後、宣言どおり矢野監督は退任。次期監督には岡田彰布が就任することが発表された。

矢野監督

良くならない肘とずっと過ごしてきた
重い雰囲気に満たされ続けた心苦しいシーズンだったが、明るいニュースがあった。それはトミー・ジョン手術を受け、長らくリハビリ生活を送っていた才木浩人の復活である。

5月、才木は3年間のリハビリの末、育成選手から支配下選手となった。背番号は「121」から入団時の「35」に戻った。

才木

そして7月。一軍に上がった才木は1159日ぶりに白星を挙げた。

試合中は久しぶりの一軍マウンドを楽しむかのように笑顔を見せた才木。ただ、チームメイトとのハイタッチでは、こみ上げるものを抑えられず体を震わせた。

試合後には抑えていた感情が爆発。3年間のリハビリを振り返り「なかなか良くならない肘とずっと過ごしてきたので」と言葉を詰まらせ号泣した。

全関西人も号泣した。

才木

復活した若きエースはこの後も安定した活躍を見せ、シーズン9試合に登板し4勝と結果を残した。

才木浩人成績(2022年)
登板 9試合(投球回数47回)
勝敗 4勝1敗
防御 1.53

関連ページ

矢野燿大が監督

  • 2019 3
    69勝 68敗 6分
  • 2020 2
    60勝 53敗 7分
  • 2021 2
    77勝 56敗 10分
  • 2022 3
    68勝 71敗 4分

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